増井淑乃

個展「グッバイヘイロー Goodbye Halo」

Goodbye Halo 2011 watercolor, pigment on paper mounted on panel 53.1 x 65.5 cm ©Yoshino Masui

<作品紹介>
増井淑乃は、細密な模様からなる神秘的な風景に動物が配された水彩画を制作しています。無数の点と曲線で描かれたその模様は作品一点一点で異なり、単に装飾的なのではありません。夢幻感をたたえ、繊細ながら時には不穏さや緊張感を感じさせるそれらは、反復、繰り返すことによって世界を把握しようとする作家の意図や、昔の記憶の断片、また彼女のいう「ありとあらゆる統一されない感情」など様々なものが投影されているといえます。
紙に水彩で下地を塗り、時間をおいてから何度も重ねて描かれる画面には、滲みによってできる偶然の効果と意図的で入念な描線によって独特のテクスチュアがつくりだされます。またそこに描かれている、猫や馬、鳥などの動物たちは、彼女が身近な存在として観察してきたものです。なかでも増井が「掛け値なしに美しく、それが描き続ける理由にもなる」といい、また描く対象としてだけではなく、着想自体に重要な存在になっているのが馬です。競馬場に通い見続けている馬について、彼女は以下のように話しています。

 「3コーナーを過ぎたあたりから、いつも馬群を目で追っている。一瞬、大欅に遮られたあと、地平から、色のカタマリが弾丸みたいに迫ってくる。その先の地平では勝者と敗者の選別が行われる。地平から地平を何度も通り過ぎ、やがて静かに去っていく。願わくは、その先に、またもう一つの地平があらんことを。今度は穏やかで、速度の遅い・・・。」
これらの馬や他の動物たちは、増井の作品のなかでは背景と有機的に統一し、まるで神話のなかの動物のような象徴的な存在として描かれています。

 

<展覧会について>
展覧会のタイトル、「グッバイヘイロー(Goodbye Halo)」はアメリカで活躍した牝の競走馬の名前です。引退後、繁殖牝馬として日本に輸入されました。現在は繁殖牝馬としても引退し、北海道の牧場で余生を送っています。彼女の時代は終わりましたが、サラブレッドの血の流れの一部として続いていきます。
同名の新作は、下地に定着しにくく、あらゆる水分に弱い植物顔料が用いられ、そのデリケートな性質を利用して制作されました。また”Halo”という言葉には光輪(神などの理想化された存在がもつ光)という意味もあります。その他の新作と未発表作7 – 8点を展示します。是非ご高覧ください。
また今回は作家の希望により、売り上げの10%を東北関東大震災への義援金、および被災地の動物たちへの支援として寄付いたします。

 

作家プロフィール

増井淑乃

1976年静岡県焼津市生まれ。静岡県立清水南高校芸術科に進学後、学問としての芸術に関心を持ち、多摩美術大学美術学部芸術学科で東洋美術を研究。1999年卒業後、再度制作を開始。現在東京を拠点に活動を行っています。
増井の作品は繊細で細密な水彩画です。紙に水彩で下地を塗り、時間をおいてから何度も重ねて描かれる画面には、滲みによってできる偶然の効果と意図的で入念な描線によって独特のテクスチュアがつくりだされます。そこに描かれている、猫や馬、鳥などの動物たちは、幼い頃の色や匂いの記憶と共に彼女が身近な存 在として観察してきたものです。これらの動物たちは、増井の作品のなかでは背景と有機的に統一し、まるで神話のなかの動物のような象徴的な存在として描かれています。
また、生まれた土地との結びつきが断たれた経験により、しばしば浮遊感におそわれるという増井は、描く ことでもう一度土地と繋がろうとしているのではと語ります。「誰にでもわかるものを描きたい」という彼女 の美しく鮮やかな作品は、ダイレクトに観る者の心をとらえ、どこかで見、感じたことがあるような記憶の中の風景や感覚を思い起こさせるでしょう。

増井の作品は、芥川賞作家である磯崎憲一郎のデビュー作『肝心の子供』(第44回文藝賞受賞 / 2007年、河出書房新社主催)の装画となった他、世界中のキュレーター、批評家などよって推薦された 1975年以降生まれの作家を紹介した書籍「Younger Than Jesus: the Artist Directory」(Phaidon/The New Museum 出版、2009年)に、森美術館チーフ・キュレーター片岡真実氏により選出、掲載されています。小山登美夫ギャラリーでは2006年、2008年、2011年、2013年と4度の個展を行っており、2016年1月には、静岡の駿府博物館にて個展を開催しました。

1976年 静岡県焼津市生まれ
1999年 多摩美術大学美術学部芸術学科卒業